脳神経外科医の生活 A daily life of the neurosurgeon

東海地方在住の脳神経外科医のブログです。I am a neurosurgeon and lives in Tokai region.

脳外科医は地獄行き

自分の上司が良く言っていました。

「俺たちは天国には行けないからなぁ」と。

色々な屍を超えてきた、上司ならではの言葉だと思いました。

 

 

自分が脳外科医を選んだのは、人の生死に直結する科だと思ったからです。

当然、内科や一般外科など、多くの科が直結するとは思います。

けれども脳外科医は、緊急で来た患者さん、くも膜下出血脳出血、重症頭部外傷などその場で処置をしなければすぐに亡くなってしまう患者を相手にすることが多いです。

 

そういった患者さんの治療が間に合って、状態が改善し退院されると、とても達成感があります。自分の手術で助けられることにやりがいを見い出し、脳神経外科を選びました。

 

しかし、当然、転帰が良い患者さんがいれば悪い患者さんもいます。

本当にドラマみたいなことを多々経験します。

例えば、

双子のお子さんが生まれたばかりの若い奥様に、「あなたの夫はもう助かりません。このまま心臓が止まるまで待つしかありません」と宣告したり・・・。

高校生の娘さんの父親に「あなたの娘はもう話したり手足を動かしたりするどころか、目覚めることもありません」と説明したり・・・。

 

一言一言、慎重に言葉を選びながら、残酷な説明をします。泣き崩れてしまう方もいれば、驚くほど静かに、無表情で受け止める方もいます。しかし、聞きたく無いだろう事実を伝えなければなりません。

 

緊急手術が必要な患者さんはさらに迷います。

自分の大切な人が、ある日突然倒れ、急いで病院に駆けつけたら、医師から「手術をすれば助かるかも。ただし命は助かっても寝たきりになるかもしれない」と言われて、迷い無く決断出来る人がどれほどいるのでしょうか。

説明している医師も助言はしますが、最終決断は家族に委ねます。これまで生活を共にしてきて、どういった関係性だったのか、どういった人生だったのか医師には知る由もありません。医学的な知識や可能性を説明することしか出来ません。

 

 

手術をしたはいいが、良い結果にならなかったとき、予想しない結果となってしまったときとか、本当に自分が行った診療は正しかったのか考えてしまいます。

診療には最善はあっても正解はありません。最善を行っても結果が全てです。

今まで自分の手術で何人もの患者さんを不幸にしてきました。少なくとも脳外科医なら、大なり小なり経験があることだと思います。正解がないからこそ最善を考えて、診療をします。

 

脳外科医は地獄行き。天国には行けないと言っていた上司をなぜか最近良く思い出します。